天国のパパへ、隆はこの秋に結婚するよ

 こんな風に文章を書くのは恥ずかしいです。いわゆる自分語りをすると、不幸自慢だとか、悲劇のヒロインぶるなとか、と思われそうだからです。世の中にはたくさんの人がいて、そんなことはよくある話だからです。

 

 先日は「高校時代に父親が不倫した挙句、不倫相手に振られて自殺した。」という話をTwitterのフォロワーさんがしてくれました。そんなこともあるのです。

 大学時代に知り合った親友の隆もまた、18歳のときに父親を亡くしています。隆は高校生になっても父のことを「パパ」と呼んでいました。パパが亡くなるまでパパと一緒にお風呂に入って頭や体を洗ってもらい、パパが出張でいない日は風呂に入らなかったといいます。末端冷え性の隆は、パパの太ももに足をはさんで一緒に寝るのが好きだったそうです。

 そんなパパがうつ病で休職したとき、「やった、毎日パパ家にいるんや」と思ったそうです。隆は「あのときは何もわかっていなかった」と振り返っています。病状が悪くなったパパは、毎日毎日「死にたい」という言葉を漏らしました。隆はそれにうんざりしていました。そして、隆はパパからうつ病が伝染ったような気持ちになりました。

 パパが縊死した日、隆は泣きました。次の日も次の日も隆は泣きました。でもどこか、パパが死んだことによってパパから解放されたような気がしたそうです。そしてそれが、パパに悪いような気がして、隆はまた泣きました。

 隆は大学を中退しました。そして、一度だけ精神科に来院しました。そのとき、なぜだか隆はヘラヘラと笑っていました。医師は「君は大丈夫だ」と言いました。隆も「そうですよね、大丈夫っす」と言って帰りました。その日の夜も、隆はパパのことを思い出して泣きました。

 1年後、隆は大学を受験しなおし、県外で一人暮らしをはじめました。大学の図書室前で恋人と談笑する隆は、いたって普通の大学生に見えます。隆が1年前まで自分で洗髪もしたことのない男だなんて私は思ってもみませんでした。隆が毎晩パパのことを思い出して泣いていたことも知りませんでした。

 

 世の中にはたくさんの人がいて、日々いろんなことが起きていて、私は何も知らないのです。それでも明日は続いていくのでした。